Ⅰ 一般事項

植物検疫とはどのような仕事ですか? 法的根拠は何ですか?

農作物の病害虫の侵入や分布の拡大は、寄生植物である農作物の国際間あるいは国内間の流通に伴うものがほとんどです。
このため「植物検疫」は、農作物に付着した病害虫が輸入された場所で農作物や森林樹木などの人間の生活に有益な種々の植物に被害を与えて経済的な損失を招かないようにするため、農産物の輸出入や国内移動に際して検査を行ったり、輸入・移動に禁止や制限を行ったりしています。
植物検疫には国際間の協力が不可欠ですから「国際植物防疫条約」を各国が結び、輸出検疫の実施・植物検疫証明書の発行・病害虫発生情報の交換などを行っています。
日本においても、国際植物防疫条約に基づいた国内法である「植物防疫法」に基づき「植物検疫」を行っています。

植物検疫ではどのような植物を検査対象にしていますか?

苗、苗木、穂木、球根、種子などの種苗類、切花、生果実、野菜、穀類、豆類、飼料原料、乾燥牧草、嗜好香辛料、木材(製材を除く)などを検査の対象にしています。

 

輸入された植物はすべて検査されるのですか? また、同じ地区や農場で生産された同じ植物の場合でも、輸入の都度検査する必要があるのですか?

農産物は、管理された工場で均一生産された工業製品と異なり、気象、栽培状況、保管状況など様々な要因でそれに付着する病害虫の種類や状況が変わるので、輸入の都度、検査する必要があります。
検査する数量については、全量検査する植物と抽出検査する植物とがあります。かんきつ類やりんごなどの果樹苗木や穂木、サツマイモやジャガイモの生茎、生塊根、生塊茎は全量検査を行いますが、これ以外の植物は全て抽出検査です。
抽出される数量は、統計理論に基づき植物の種類、寄生する病害虫の種類や荷口の大きさによって決定されています。これは一覧表にされ、公表されています。

輸入検査は、1本船分や1貨物分をまとめて検査するのですか?

違います。
「検査単位」を設けて、この単位ごとに病害虫の有無やその種類を検査しています。
「検査単位」は、植物の種類によって異なりますが、共通事項は、生産国別、輸出港別、輸出者別、輸入者別、種別(種類別)で、さらに形態別・品種別に区分しているものもあります。

植物を輸入するにあたって用意しておく必要のある書類にはどのようなものがありますか?

輸出国政府の植物防疫機関が発行した「植物検疫証明書」が必要です。
また、1つの貨物に多数の品目や品種(多種類の苗木、多種類の種子、多種類の切花など)がある場合は、パッキングリストがあると検査を迅速に行うのに大変有益です。

植物を輸入する場合、病害虫の他に注意すべき事柄がありますか?

(1)

書類面では、輸出国政府の植物検疫機関が発行する「植物検疫証明書」の記載内容にミスのないことが重要です。

(2)

土については世界のどの地域からも日本への輸入を禁止していますので、土が付いていないようにして下さい。特定の地域からのイネワラ、イネモミ、ムギワラなどは、日本への輸入が禁止されているので、充填物などとして使用しないで下さい。

(3)

輸入を禁止しているものについては、植物防疫所、または当協会へおたずねください。

(4)

同一の海上コンテナーに複数の植物が積み込まれるときは、輸入検査時に取り出しが容易にできるよう積み付けを工夫してください。

 

「輸入禁止植物一覧表」へリンク)

輸入検査はどのような場所で行うのですか?

航空貨物は、空港内の上屋及び植物防疫所の検査場で行います。
船積貨物の場合、海上コンテナー貨物はコンテナーヤード内で、専用船積み穀類・豆類などは本船内で、専用船積み果実は青果物倉庫で、専用船積み木材は本船上又は貯木場で行います。
いずれの場合も、物流を必要以上に阻害しないようにするため、検査の判定は可能な限り検査現場で行うようにしています。
精密な検査が必要な場合は、植物防疫所の検定室に植物を持ち帰り、顕微鏡などを用いて判定しています。
なお、隔離検疫の対象となっている果樹苗木、花卉球根などは、港での検査の後に一定期間隔離圃場で検査を行います。

輸入検査にはどのくらいの時間がかかりますか?

植物の種類・貨物の量などによって異なりますが、例えば、短いものでは10分、専用船で輸入されたかんきつ類生果実が10万カートンあった場合でも0.5日といったところです。なお、二次検査が必要な種子や隔離検疫対象植物は、さらに、日数・期間を必要とします。(「Ⅱ種苗のページの問7」も併せてお読みください。)

土曜日、日曜日、祝日も輸入植物検査を行っていますか?

航空貨物の場合は、休日(土曜日・日曜日・祝日)も航空機が入港する成田国際空港、東京国際空港、中部国際空港、関西国際空港や福岡空港などでは、検査を行っています。
海港の場合は、休日は民間の荷役や輸送が行われないので、輸入検査も実施していませんが、貨物の引き取りを急ぐなどの理由で要請のある場合は検査を行っています。

10

輸入植物の検疫が終わらないと食品検査は受けられませんか?

そのようなことはありません。
輸入者から申し出があり、検査時間の調整など受検体制が整っていれば、両方の検査を同時に受けることができます。

11

輸入した植物がどのような病害虫で不合格になったか知りたい時はどのようにすればよいですか?

検査結果は、検査後すぐに植物防疫官から管理者又は代理人へ伝えられますので、管理者またはその代理人におたずね下さい。

12

輸入検査の結果、消毒や廃棄が必要になった場合は、何らかの証明書を発行してもらえますか?

輸入者から要求があれば「消毒または廃棄命令書」が発給されます。
また、廃棄の場合は、輸入者から要求があれば廃棄完了後「処分証明書」も発給されます。なお、輸入禁止品の場合は、輸入者から要求があれば廃棄終了後「処分証明書」が発給されます。

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輸入した植物は、輸入時にすべて消毒が必要ですか?

そのようなことはありません。
その植物が輸入禁止品でなく、かつ生きている病害虫が付着していない植物は消毒の必要はありません。生きている病害虫が発見された場合は、消毒方法がない場合を除き、消毒、廃棄または返送するかは輸入者が選択することができます。

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消毒は誰が行っていますか?

法律上は輸入者が自ら消毒することが規定されています。しかし、輸入者が消毒に必要な技術や機材を持っていない場合には、消毒技術を有する民間の防除業者と輸入者との契約により防除業者が実施することが認められています。

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輸入できる植物や輸入できない植物は、どこに聞けばわかりますか?

植物防疫所又は当協会へおたずね下さい。

「輸入禁止植物一覧表」へリンク)

16

なぜ輸入を禁止している植物があるのですか?
同じ植物であっても地域によって禁止であったりなかったりするのはなぜですか?

日本に侵入した場合、日本の農業生産にとって大変な脅威となる特定の病害虫で的確な検査方法がなく、また消毒方法もないものについては、侵入を阻止するため、それらの病害虫が寄生する植物の輸入を禁止しています。
病害虫の分布は、その種類によって分布している国・地域、分布していない国・地域とがありますので、同じ植物であっても輸入禁止の対象地域が異なるわけです。

 
(一社)全国植物検疫協会編「日本の輸入植物検疫」より抜粋、編集。(文責:(一社)神戸植物検疫協会)



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Ⅱ 種 苗 ・ 切 花

苗木を輸入したいのですが、葉や生果実が付いた状態で輸入できますか?

生果実は、植物の種類と地域によって輸入を禁止しているものがあります。
また、苗木自体も種類と地域によって輸入が禁止されているものもありますので、注意して下さい。

「輸入禁止植物一覧表」へリンク)

土の付着する植物は輸入できますか?

土の付着している植物は、輸入を禁止されています。土を完全に取り除いて輸入してください。

鉢植え苗などの植え込み材料に使用できる種類はどのようなものがありますか? また、苗の根回りを包装する材料としては何が使用できますか?

土やイネワラなどは輸入が禁止(イネワラは朝鮮半島・台湾を除く)されているので、使用できません。植え込み材料としては、一般的には、ピートモス、ミズゴケ、パーライト、バーミキュライト等が使用できます。しかし、輸入検査で土との区別が困難なことがないように、新鮮な材料を使用してください。根回りの包装には、土を完全に除去した後、ピートモス、ミズゴケが使用できます。しかし、これらの材料でも、未使用の新鮮なものを使用してください。

種子を輸入する場合、どのようなことに注意したらよいのですか?

病害虫の付着していない、また、菌核、麦角、土などが混入していない種子を輸入していただくことと、その種子には輸出国の植物防疫機関による検査を受けたことを証明する植物検疫証明書を添付してください。

苗木や種子を輸入する場合、輸出前にくん蒸剤や薬剤粉衣などの消毒を行う必要がありますか?

日本はこれらの消毒措置を要求していません。
もし、自主的に輸出前に消毒した場合は、輸出国の植物防疫機関に申し出て、それに添付する植物検疫証明書の処理欄に消毒方法、薬剤名等を記載するようにしてください。 輸入検査時の安全対策や検査の参考として有益です。

ポット植えの植物は、植物からポットを取り外して輸入検査をするのですか?

検査数量分を植物から取り外して、根回りと植え込み材料について検査を行います。

種子の輸入検査はどのように行いますか?また何日かかりますか?

港での害虫を主体とした一次検査に、二次検査として検定室で、主に種子伝染性病害を対象に顕微鏡による観察、培養等による精密検査が行われます。培養による精密検査には、5日間~7日間が必要です。

隔離検疫とはどのような検査ですか?また、隔離検疫を必要とする植物はどのようなものですか?

植物のウイルス病などは、輸入港の検査ではその植物がウイルス病に保毒しているかどうか技術的に判定ができないため、特定の植物を隔離圃場に移して、その植物の生育中に検定植物への接種や抗血清による診断、電子顕微鏡観察などの技法を用いて行う検疫が隔離検疫です。
この隔離検疫の対象となる植物は、①ユリ、チューリップ、ヒヤシンス等の球根類、②ジャガイモの塊茎及びサツマイモの塊根、③カンキツ類、リンゴ、ナシ、ブドウなどの果樹苗木及び穂木、④オランダイチゴ、サトウキビ及びパインアップルの苗や穂木です。

苗木や球根などの組織培養体を輸入したいのですが、隔離検疫は必要ですか?

組織培養体であっても、植物ウイルスの除去が完全に行われていないことがありますので、隔離対象植物の組織培養体は隔離検疫が必要です。

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球根類については隔離検疫が免除される場合があると聞いていますが、どのような場合に免除されるのですか?

これは隔離栽培代替措置制度といい、輸出国政府(植物防疫機関)と日本の植物防疫機関との合意に基づいて行われています。
この措置においては、輸出国において輸出国側植物防疫機関により栽培地検査が実施され、その検査に日本の植物防疫官が立ち会います。あるいは特殊な容器に植物を封入するなどの措置を必要とします。
さらに輸出国側植物防疫機関の発行する植物検疫証明書にその旨の追記をする等の条件を満たすことが必要です。
現在、この制度の適用対象となっているのは、オランダ産、ベルギー産、チリ産及びニュージーランド産の特定の花卉球根類です。

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すべての種類の切花を輸入することができますか?

ほとんどの切花は輸入できます。
しかし、生果実の付着している切花やナス科、アザミ属、モウズイガ属等の切花は、日本への輸入を禁止している国や地域がありますので、植物防疫所又は当協会におたずね下さい。

 
 
(一社)全国植物検疫協会編「日本の輸入植物検疫」より抜粋、編集。(文責:(一社)神戸植物検疫協会)




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Ⅲ 果実・野菜

輸入が禁止されている果実でも冷凍すれば輸入できますか?

単なる冷凍ではだめです。
次の条件をすべて満たしている凍結果実であれば、輸入することができます。

(1)

-17.8℃以下で凍結されていること。

(2)

この凍結状態が日本での輸入検査の時点まで維持されていること。

(3)

上記(1)の凍結措置について追加記載された輸出国植物防疫機関の発行する植物検疫証明書が添付されていること。なお、この証明書の他に予め日本国植物防疫機関が認めた公的機関の証明書でもよい場合もあります。これについては植物防疫所又は当協会におたずね下さい。

ジャガイモやサツマイモは、輸入できますか?

日本が輸入禁止している地域(アリモドキゾウムシ、じゃがいもがんしゅ病などの発生地域)からのジャガイモの塊根は、輸入できません。また、これらの地域以外からのものは、ウイルス病を保毒している恐れの高いことから、国の隔離圃場において1作期の隔離検疫が必要です。

「輸入禁止植物一覧表」へリンク)

 

(一社)全国植物検疫協会編「日本の輸入植物検疫」より抜粋、編集。(文責:(一社)神戸植物検疫協会)





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Ⅳ 穀類・豆類・乾燥牧草

穀類や豆類を輸入する場合、輸入前や航海中に消毒を行う必要がありますか?

ありません。日本の植物防疫機関は、そのような措置を要求していません。

アメリカ合衆国産の乾燥牧草を輸入する場合、燐化アルミニウムで消毒して輸出することがありますが、どのような理由で行われているのですか。

日本はわが国未発生のヘシアンバエの侵入を防ぐため、この害虫の発生地域からのヘシアンバエの寄生植物であるムギワラ類や、かもじぐさ属の茎葉の輸入を禁止しています。乾燥牧草にこれらの植物が混入している場合は、輸入することができません。
アメリカ合衆国にはヘシアンバエが発生しているので、日米植物防疫機関当局間の合意に基づいて、乾燥牧草を輸入前に燐化アルミニウムくん蒸し、また、その旨を植物検疫証明書に記載することが規定されています。

3

動物の輸送時に餌として使用するアワやヒエの種子や敷ワラは、輸入時に植物検査を受ける必要がありますか?

輸入検査が必要です。
特に注意したいのは、生果実、イネモミ、イネ、ワラ、ムギワラなどはその輸出国(地域)または生産国(地域)によっては、日本への輸入が禁止されているものがありますので十分ご注意下さい。具体的なことは、日本の植物防疫所又は当協会におたずね下さい。

 
(一社)全国植物検疫協会編「日本の輸入植物検疫」より抜粋、編集。(文責:(一社)神戸植物検疫協会)



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Ⅴ 木 材

製材は、輸入検査が必要ですか?

検査の対象となりません。
まぎらわしいものは、輸入時に検査対象かどうか書類や現物で確認されます。

予め消毒を行って輸入した木材は、輸入検査は免除にならないのですか?

輸入検査は免除になりません。輸入時には、生きてる病害虫が寄生しているかどうかの検査が必要です。
日本の植物防疫機関は、輸出国や輸出者に対して輸出前や航海中に木材を消毒することを要求していません。

輸入した木材は全て消毒になると聞きましたが、本当ですか?

ちがいます。
輸入検査を行い、その結果生きた病害虫の寄生を認めれば、消毒して輸入するということになりますが、病害虫の寄生がなければ消毒することなく輸入することができます。

 
(一社)全国植物検疫協会編「日本の輸入植物検疫」より抜粋、編集。(文責:(一社)神戸植物検疫協会)